オールドヴァイオリン(フランス)Francois Hyppolyte Caussin (フランソワ・イポリー・クサン) ca.1880
おはようございます!
オールドヴァイオリン専門店
㈱ダ・ヴィンチヴァイオリン
代表の山口保行です。
これまで2つのフランス・クサン工房(Atlier Caussin)製オールドヴァイオリンを紹介してきましたが3本目は工房製(お弟子さん製作)ではなく親方(フランソワ・父)の息子、Francois Hyppolyte フランソワ・イポリー製作のヴァイオリンです。
1本目の記事は こちら から
2本目の記事は こちら から
初めてこのブログを読む方のために、今一度おさらいです。この楽器が製作されたクサン工房は1800年中ごろから終わりまでフランスのNeufchateau(ヌシャトー)で弦楽器の製作をしていました。
クサン(工房)の特徴は古く見せる「オールド仕上げ」加工(主にイタリアンオールドヴァイオリンのコピー)でしたね。今回は工房製ではなく親方レベルのマスターメイド、完全手工品です。
二人の息子のFrancois Hyppolyte(フランソワ・イポリー)、Nicholas(ニコラ)の楽器を見ますと製作技術が優れていているのがよくわかります。その作りやニスの処理を見ますと間違いなく多くのイタリアンオールドヴァイオリンを見ていたことが容易に想像できます。
では楽器の詳細をご覧ください。
まず全体から
この楽器の「ふくらみ」もアマティ型で中央がかなり盛り上がっていますね。以下の写真も参照いただきたいのですが、フランスの楽器でイタリアンコピーでこのような作りをしているのはクサン(工房)くらいです。f字孔もシャープで美しくカットされています。
エッジ(縁)から急激に高くなり、結構段差があるのがわかると思います。
指板の下とボディの隙間があまりないくらい隆起しているのがわかります。
このf字孔は段差もあってとてもエレガントなのですが、一方でf字の下の部分はノミで彫った跡があって見た目の力強さや製作者の大胆さを感じます。
楽器としては100年以上経過しています。使用感も少なく、割れも無いとても状態が良いので、表面や縁の傷はもちろん、このようなひっかき傷も「わざと」付けられたものかもしれません。
糸巻きも穴埋めして新しいペグを入れました。
スクロールです。
こちらもクサン工房的な素朴な作りです。
スクロールの正面・裏には使用して出来た「減り」もあって良い雰囲気です。
低音側→パーツを見ていきましょう。
クサン工房的の作りはイタリアンオールド的で中心が大きく盛り上がった「ふくらみ」はとても迫力があります。別の角度から見ると良く分かります。
こういうふくらみに慣れてくると隆起が無いと寂しく感じてしまいそうです。
横板のニスも表・裏板と同じようにアンティーク加工されていますね。
テールピース・あご当てはセット物ではないですが、全て木目のよく見えるローズウッドにしてみました。
では裏板を見てみましょう。
木目を見るとカーブしているので中心部分が物凄くふくらんでいるのが分かると思います。表板よりも作りやニスの処理がよりクサン工房的な仕上げになっています。手間ひまかけている証拠です。
ただ大きくふくらんでいると品がない感じもするのですが、この楽器は迫力ありつつも全体的に品がありとても優雅に見えます。1700年前後のオールドイタリアン意外にはこういう作りのヴァイオリンを目にすることが少ないですね。
コーナーです。パフリングは象嵌です。
ネックの付け根(ボタン)付近です。
せっかくですから3本を並べてみましょう。
作り(形)、ニスの仕上げ、3本とも個性がありますね。スクロールはどうでしょう?
オールド仕上げなので、どれも雰囲気が似ています。しいて違いを挙げるなら今回の楽器(右)のスクロールは中心からの広がりが大きめですね。
3回に渡りクサン(工房)の楽器を見てまいりました。クサンの楽器はその優れた製作技術(特にオールド仕上げ)で多くの製作者に影響を与えてきました。
フランスではその後もミルクールの大規模工房で多くのアンティーク仕上げのイタリアンモデルが多く生まれましたが、クサンの技術はきちんと引き継がれましたね。
例:J.Thibouville-Lamy のアンティーク仕上げを施したヴァイオリン(裏板)
このヴァイオリンもとても保存状態が良いし、必要な修理や部品交換をしてありますので長期間安心してお使いいただけると思います。とても高価な本物イタリアンオールドヴァイオリンが手に入れば良いですが、このクサンのヴァイオリンは見た目も美しく、明るくパワフルな音ですので十分楽しめるでしょう。
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